SABED環境設計シミュレーション賞の社会人部門・チャレンジ部門が設けられ、5回目の開催となる今回、新型コロナウイルス感染症の影響か応募作品は4件とやや少なかったが,意欲的な提案が寄せられた。社会人部門については1作品に最優秀賞を授与することなり、チャレンジ部門では1作品に最優秀賞を、1作品に優秀賞を授与することとなった。

 社会人部門の受賞作品は駅ビルをテーマとしたものであり、ビル内に地域の自然のエッセンスである滝と緑を再現した上で、これらが建物内の光・音・温熱・空気環境に及ぼす影響を精緻なシミュレーションによって検討するというもので、自然環境を建物内に取り込む挑戦的な計画となっている点が高い評価を受けた。

 また、チャレンジ部門で最優秀賞となった作品は、ホールの音響性能に関わる反射板形状の最適化のために、シミュレーションによる検討を行ったものであり、優秀賞は避暑地における休憩所における集熱効果の高い屋根形状を逆解析によって求めたものである。チャレンジ部門にふさわしいユニークなシミュレーションの応用であることが評価された。

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、昨年に続き公開審査の開催は見送らざるを得なかったが、来年度はさらに多くの作品が応募され、公開審査で意見交換の場を設けられるようになっていることを期待したい。

SABED代表理事 倉渕 隆

社会人部門 最優秀賞

JR熊本駅ビル

井上 瑞紀(株式会社日建設計、担当:音環境・実測)
篠原 奈緒子(元・株式会社日建設計、担当:光環境・実測)
中曽 万里恵(株式会社日建設計、担当:光環境・実測)
永瀬 修(株式会社日建設計、担当:温熱環境・実測)
古川 ひろみ(株式会社日建設計、担当:温熱CFD)
八登 千佳(株式会社日建設計、担当:滝風CFD)
金子 知弘(株式会社日建設計、担当:実測)
朴 玄淳(元・株式会社日建設計、担当:意匠設計)
高辻 量(株式会社日建設計、担当:設備設計・実測)
小松 良明(株式会社日建設計、担当:ランドスケープ設計)
岩田 友紀(株式会社日建設計、担当:ランドスケープ設計)

<作品評>
・意匠
商業施設の中に滝や泉をつくった事例は珍しくないが、このプロジェクトの面白さは、滝音に代表されるノイズを、快適性を獲得するためのデザイン要素として扱い、徹底したシミュレーションを通じてコントロールしていることである。空間のムラをポジティブに捉え快適さに転換する指向には多いに共感するし、環境シミュレーションの新たな可能性を感じさせる好事例である。(安原)

・光
様々な環境要素について精緻なシミュレーションを基に検討がなされており、さらにはシミュレーション評価のみに留まらずアンケートや実測によるPOE(Post Occupancy Evaluation)も実施している点など、環境設計に基づく設計事例としてお手本となるような作品であると評価できよう。(吉澤)

・気流
既存の評価指標では十分に評価しきれない環境要素について、設計段階から目標を定めて精緻なシミュレーションによって検討を行った好事例である。また、竣工後の測定やチューニングを行っている点も非常に素晴らしい。水や植物といった自然を室内空間に取り入れて多様かつ快適な室内環境が形成されている本建築において、省エネルギー性能も気になるところなので、今後の検証についても期待したい。(高瀬)

 

チャレンジ部門 最優秀賞

富良野市複合庁舎のホールの二重音響反射板の検討

井上 瑞紀(株式会社日建設計、担当:音響設計)
中川陽介(株式会社日建設計、担当:意匠)
原田尚侑(株式会社日建設計、担当:コンピュテ―ショナルデザイン)

<作品評>
・意匠
ホールの音響性能について、設計の制約条件を逆手にとって反射板角度の遺伝的アルゴリズムを用いた最適化検討を行った提案である。舞台・客席双方の音環境の向上を意図したシミュレーションによる丁寧な検討プロセスとともに、竣工後に実測調査を行い、設計意図がきちんと実現されていることも高く評価された。(谷口)

 

チャレンジ部門 優秀賞

もりの休憩所
齊藤 慎也(合同会社3Darchitects)

 

<作品評>
・熱
軽井沢の休憩所における、太陽熱集熱パネルの配置を検討した作品である。集熱を日射解析により検討した事例として評価できる。冬の低い太陽光の取得のために最適となっているのか、より明確に示すことができれば、より素晴らしい。(前)