SABED環境設計シミュレーション賞の社会人部門が設けられ、2回目の開催となる今回、新型コロナウイルス感染症が全世界で猛威を振るう中、建築環境設計の重要性が一層明確になってきている。
こうした世相を反映し、空調システムや働き方の変化に着目した、ポストコロナに一石を投じる意欲的な作品が見受けられた。また多くの作品において、建築設計・環境設計の専門家として、社会に発信すべき知見がまとめられており、社会人部門としてふさわしいレベルであった。
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、公開審査の開催は見送らざるを得なかったが、来年度はさらに多くの作品が応募され、公開審査で意見交換の場を設けられるようになっていることを期待したい。
最優秀賞
◆Open-air & Environmental Characterized Office
オープンエアの次世代テナントオフィスと環境キャラクタライズサービスの提案
井上 瑞紀(株式会社日建設計、担当:音環境解析)
内田 橘花(株式会社日建設計、担当:風環境解析 )
奥井 麻衣子(株式会社日建設計、担当:意匠設計)
關 信怡(株式会社日建設計、担当:コンピュテーショナルデザイン・環境解析全般 )
原田 尚侑(株式会社日建設計、担当:コンピュテーショナルデザイン・環境解析全般)
本田 佳奈子(株式会社日建設計、担当:意匠設計)
<作品評>
ポストコロナにおけるオフィスの提案としてOpen-Air-Officeを提案し、気候によって屋内屋外を使い分けることを想定している。このような半屋外空間の多角的な環境シミュレーション予測を実施しており、解析により得られた各種物理環境は、環境キャラクターという概念により統合・分類され、空間のゾーニングに展開されており、大変興味深い。また現在注目されているActivity Based WorkingやWellness、感染症対策を考慮の上、設計手法のみならず運用・管理方法までをパッケージとして提案しており、新しい時代の設計者の職能を示しているとも言える。しかし、これまでも同様の提案がアイディアコンペを中心に多く見られたが、その際に課題としてあげられてきた強風域の発生や直射光の影響などを植栽やパーティションといった付属物で解決を図っている点については、もう少し踏み込んだ建築的提案が見たかった。また、分散コアによる自由なプランには非常に魅力的に見える一方で、構造部材が従来通りのグリッドスパンに落とされた柱である点も気になる。階高の設定も含めて、従来のテナントビルからのさらなる飛躍があれば、よりおおらかに風環境・光環境などをコントロールできる空間が実現できたのではないだろうか。
総合的には、ポストコロナのオフィス環境の在り方について、風・音・光・視覚・熱を網羅したシミュレーションを駆使した検討を行っており、優れたケーススタディーと評価でき、最優秀賞に選ばれた。
優秀賞
◆with/after コロナの換気・空調設計と可視化
飯田 玲香(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:劇場・ホール)
八登 千佳(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:飛沫距離・感染用簡易個室ユニット・かけ流し空調)
金子 知弘(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:商業施設(レジ)・エレベーター)
塚田 眞基(株式会社日建設計 デジタルデザインラボ室、担当:学校教室)
永瀬 修(株式会社日建設計 環境デザインスタジオ、担当:気象分析)
<作品評>
建築の設計ではないが、新型コロナ対応の空調として多角的な検討を試みており、それぞれが有意義な提案かつ時節柄大変タイムリーな検討であることから、優秀賞に選ばれた。
ただ建築設計とは言い難く、コロナ対策の要素技術の集成ではあるが、全体としてのまとまりが乏しい。個々の事例については興味深いが、既往の知見の引用となっており、建築全体の中で各提案システムがどのようにインストールされていくのかというイメージが明確ではなかった。最後のかけ流し空調については、空調の熱負荷・エネルギー消費量の削減効果の評価方法としてやや疑問を感じた。
動画や設定ファイルの公開など、検討の社会的普及に期待したい。